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2017年 08月 31日

北国の人たちに関する本を読む 27

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北海道札幌市出身の作家で私の超敬愛する船山馨氏著”蘆火野”読了しました。


これは明治元年から明治2年にかけて日本にて勃発した戊辰戦争及び箱館戦争と、
日本脱出後も、1870年から1871年にかけてフランス国内にて勃発した普仏戦争に巻き込まれながらも、
純愛を貫き誠実に生きた日本人の若夫婦・河井準之助とその妻おゆきの悲しいお話です。


今の時代からは想像を絶するほどの過酷で激動の時代を、
準之助とおゆきは、時には一緒に、また時には離れ離れになりながらも、
独学で学んだ外国語(フランス語)と外国人へのホスピタリティ能力を切り札にして、
日本の北海道から東京へと逃げ延び、最終的にはフランスへと渡ります。


しかし命からがら日本の戦火から逃れた2人をフランスで待っていたのがまたもや戦争ということで、
これまで何とか生き延びてきた
準之助とおゆきの二人の間に再度やり切れない不安や憂鬱がのしかかります。


けれども既に日本でフランス領事館経由にて培っていた人脈と、
準之助の勤め先のレストランやアパートの隣人や人たちからの協力を得ながらも、
2人は何とか前向きでいたわりのある自立した生活を送り、
フランスのパリにてやっと2人の幸せの象徴ともいえるべき寛という一人息子を授かります。


だがそんな幸せもつかの間、寛やおゆきを溺愛していた父親である準之助は、
1871年のパリ包囲戦に巻き込まれてしまい、
残念ながら23歳という若さで還らぬ人になってしまいます。


20歳を過ぎたばかりのおゆきは、子供を抱え1人異国で生きていく事を決意。
彼女はフランスで20年もの間、掃除婦、洗濯女、煙草工場の女工、女中など、
彼女に出来る仕事は何でもして、準之助に生き写しの一人息子の寛を立派な料理人へと育て上げます。


そして明治27年の晩春、おゆきは寛を連れて帰国の途に着くのですが、
やっとたどり着いた日本では日清戦争の開戦直前の状況で、
彼女はまたもや戦争の中へ舞い戻っていくはめになってしまいました・・・。


この作品は背景の時代が時代だけに、
どうしても登場人物のすべてが、政府や軍隊、及び戦争や食糧不足という、
個人の力ではどうしても太刀打ちできない外部からの力により、
それぞれがまるで枯葉のように力なくそれらに吹き流されてしまうといった生き方しかできず、
読んでいる内に何ともいえないやるせなさを感じてしまう内容なのですが、
その代わりに船山氏は、一般市民から見た戊辰戦争や
普仏戦争の詳細に関しては、
船山氏本人の怒りと共に非常に細かく記載してくれているので、
この時代に一般市民がどれだけ政府に対し憤りを感じ、また日々の生活に困窮していたか、
大変よく分かるように説明してくれていてとても読み応えがありました。


またこの作品で特筆すべき点と言えば、準之助とおゆきの成熟度でした。
二十歳そこそこなのにも関わらず、2人ともお互いに対して、
非常に極め細やかで素直な愛情を惜しげもなく注ぎ合っていましたし、
それと同時に彼らは、世論に流される事なく自分達の考えで世間を見つめ今ある状況を判断し、
お互いにしっかり話し合ってから自分達の意見を導き出すといった賢さを併せ持っていたので、
2人の関係を表す部分を読む時はとても優しくそして安心した気持ちになることができました。


少し調べてみると、準之助とおゆきの一人息子・寛が働いていたといわれる「雪河亭」というレストランは、
今でも北海道の函館に洋食屋として存在しているらしいです。


http://www.gotoken.hakodate.jp/ashibino/yurai.htm


個人的には大変素晴らしい作品でした。
引き続き船山文学を読み進めていきたいと思います。


by japolska | 2017-08-31 09:12 | Wonderful Books


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